左から、産業革新機構 代表取締役社長の能見公一氏、東芝 代表執行役社長の佐々木則夫氏、日立製作所 執行役社長の中西宏明氏、ソニー 執行役 副社長の吉岡浩氏
左から、産業革新機構 代表取締役社長の能見公一氏、東芝 代表執行役社長の佐々木則夫氏、日立製作所 執行役社長の中西宏明氏、ソニー 執行役 副社長の吉岡浩氏
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 産業革新機構と東芝、日立製作所、ソニーが2011年8月31日に開催した、中小型ディスプレイの統合会社「ジャパンディスプレイ」の設立記者会見には、各社の社長/副社長クラスが登壇した(Tech-On!の第1報続報1)。登壇者は、産業革新機構 代表取締役社長の能見公一氏、東芝 代表執行役社長の佐々木則夫氏、日立製作所 執行役社長の中西宏明氏、ソニー 執行役 副社長の吉岡浩氏。以下では、記者会見において報道陣と交わされた主な質疑応答の内容を紹介する。

――(東芝 佐々木氏に)中小型ディスプレイ事業を単独で続ける選択肢はなかったのか。最近では、黒字の事業だったはずだが。

佐々木氏 グローバル・トップに立ってこの事業を長期的に続けていくためには、弊社単独ではスケールが足りないと考えた。今後、中小型ディスプレイの中核技術が有機ELなどへ移っていく中で、十分な研究開発投資と設備投資が必要になる。その点で、産業革新機構からの資金が得られる今回のスキームは非常に有効だと考えた。スケール・メリットと十分な投資能力、この二つがそろうことを重視した。この新会社を、株式上場を含めて大きく育てていくことで、公費を投じることを勘案しても新会社への投資は回収できると考えている。

――(日立 中西氏に)台湾企業(Hon Hai Precision Industry社)と組むといった話があった中で、なぜ今回の決断に至ったのか。

中西氏 事業の方向性についてあらゆる可能性を模索するのは、当然のことだ。佐々木さんが指摘した2点に加えて、この新会社であればスピード感を持って事業を進められると考えた。これまで国内企業は、国内の市場争いで体力を消耗し、世界で勝てない状況が続いてきた。新会社では、国内3社が力を合わせて日本を盛りあげていきたい。

――(ソニー 吉岡氏に)ソニーが持つ有機ELディスプレイ絡みの技術や製品は、新会社へ移管するのか。

吉岡氏 我々は業務用モニター向けに17型や24型の有機ELディスプレイを販売している。新会社は中小型ディスプレイに特化するため、我々の社内の有機ELディスプレイ事業とは狙う領域が異なる。このため、我々の有機ELディスプレイ技術は新会社での協業内容には含まれていない。ただし、新会社に対して有機ELディスプレイに関して技術的な支援を積極的に行っていく。

――(産業革新機構の能見氏に)新会社では、3社の既存の生産拠点をどのように整理統合し、どこに新ラインを設けるのか。その具体的な計画を聞きたい。また、産業革新機構が新会社をマネジメントする形で、迅速で的確な経営判断ができるのか。

能見氏 生産ラインの整理統合については、まだ具体的な計画を踏み込んで議論している段階にはない。確かに各社のラインをそのまま生かす形では生産拠点の数は多くなるが、リスク分散の観点などからはむしろ好ましいと思う。各社の拠点は地域に根ざして建設されたものであり、簡単に統廃合できるものではない。ただし、長期的には市場の要求に応じた生産体制を整えていく必要がある。新しい生産ラインは建設する予定でいるが、建設地などについて決定した事項はまだない。新会社はグローバル競争に勝ち残ることを唯一の目標としているわけなので、これらの項目については経済合理性とスピード感を重視して決めていきたい。

 マネジメントについては、新会社の経営トップは外部から招聘する予定であり、選考は既にかなり進めている。企業の統合にかかわるマネジメントを経験しており、技術開発や営業にも精通している人材を選ぶつもりだ。もちろん、3社の経営陣にも新会社の経営執行には参画してもらう。

――(産業革新機構の能見氏に)「ジャパンディスプレイ」と命名された新会社に、シャープが名を連ねていないのはなぜか。また今後、海外企業を新会社に加える可能性はあるか。

能見氏 今回の構想については、3社だけに限定して話を持ちかけたわけではない。日本企業に技術的な強みがあるにもかかわらず、市場が大きく伸びるフェーズで各社がシェアを落とす過程を繰り返しみてきた。中小型ディスプレイに関しては、その轍を踏まないための提案ができないかと長く検討を重ねてきた。さまざまな方面に我々の構想を示してきた結果、今回の枠組みに定まったということだ。

 今後、新会社の事業をグローバルに展開していく中で、中長期的には、川上・川下を含めた海外企業との連携が当然あり得る。国費を使っているから国内企業としか連携しない、という制約があるわけではない。

――(産業革新機構の能見氏に)有機ELディスプレイでは、韓国Samsung Mobile Display社が他を圧倒している。新会社でSamsung社に勝つシナリオは描けているのか。(東芝の佐々木氏、日立の中西氏、ソニーの吉岡氏に)3社はそれぞれ、新会社の有機ELディスプレイ事業にどのような形で貢献できるのか。

能見氏 有機ELディスプレイについては、次世代の中小型ディスプレイの中核技術と位置付けており、研究開発に継続的に投資していく。これにより、海外勢をキャッチ・アップするつもりだ。新会社における有機ELディスプレイ事業の具体的な戦略については、現時点で述べることができない。

佐々木氏 東芝モバイルディスプレイ(TMD)や本社において、有機ELディスプレイ技術の開発は以前から続けてきた。確かに、Samsung社と伍するには相当な覚悟が必要になる。ただし、現時点では中小型領域で液晶ディスプレイと有機ELディスプレイの優劣が完全についたわけではない。これからの技術動向を見極めた上で、有機ELディスプレイを推し進めるべき領域では我々も積極的に技術支援していく。有機ELディスプレイに関しては、まだまだ日本企業にもチャンスがあると思う。

中西氏 有機ELディスプレイについては以前から、次世代の有力なデバイスと捉えてきた。我々が持つリソースすべてを、新会社で生かしたい。

吉岡氏 既に述べたように、弊社社内における有機ELディスプレイ事業と新会社では、狙う領域が異なる。ただし、我々が持つ有機ELディスプレイ関連の特許を新会社に供与することについては、話し合いを進めている。